みなみの川

みなみの川

2021.2.27

今日は何度目の春一番か、風が強いから洗濯ものが干せない。洗濯ものをコインランドリーに午前中に持っていき、待ち時間の34分間英検準一級の勉強をする。そんな土曜日の過ごし方が好きだったが、今日は難しい。みなみの川はいつも清らかで、空想の鮎が泳いで空想の子どもがはしゃいでいた。みなみはずっと自由だった。命の洗濯をする人たちがときどきみなみの川に訪れる。いつもは話を聞いて、必要な人には必要なアドバイスをして、じゃあね、と去る。けど、匂いづわりが本格的に始まって、どんどんなにもできなくなった。30代のリスク。いろんなことがいろんなままに、正しく正しさを歪め、どこの世界に旅行しても、弱いものを寄ってたかって苛め抜くことは本質的には変わらなかった。その本質をずらすための制度の工夫に興味があった。ずっと20代のころから妊婦を見ると自然に気にかかり、必要ならベビーカーを一緒におろしたり必要なら席を変わった。階段に気を付けさせ、すべての社会が妊婦に優しくあるべきだと憤った。これは自分の為にやっていたことじゃなかったのに、いざ自分が妊婦になって落ち着いているのは、昔の自分がそばにいて、あなたは社会にきちんと守られ快適に過ごすべきだと熱弁してくれるからだ。私が愛した私自身を、いろんな人がいいねという。自己肯定とも少し違う、これは、私が映る私だけの川での豊かな生態系だ。みんな自分自身と相思相愛になりたいのかもしれない。強く生きる物語を作る力がある人には、たいてい読む力がある。私は読み、受容し、自分自身を受け入れる力と自分なりの解釈を発表する力がある。流産したらがっかりするだろうけど、自分の受容感とはまた別の話だ。臭くてキッチンに立てない。子どもの補助金を見ると、この国は子どもを育てないでほしいんだなと思う。それに対してすることは二つある。ひとつはもっとくれと言うこと。もうひとつは、私が子育てすることは国には受け入れられていないだろうけど、それは私を否定することとは何の関係もないということ。私は美しい私を愛していて、主張する力と自分を受け入れる力が程よく協調している。そういう私の川が、時々昔から語り継がれる川の物語とつながる。自分を愛しているひとがむかしは沢山いたかもしれない。だけど、きっと今だっていっぱいいる。昔の話はいろんなバージョンがあって、その源流をたどっていったり違うパターンに流れ着くのはとてもこそばゆくて楽しい。その物語の中に自分を見つけて解釈して、新解釈を見つけるのはドキドキする。時々悲しいくらいに。だけど、それを解釈することは興味深い。次作の一歩目として、桃太郎宝の蔵入りの新解釈を発表する。また、今までの川にまつわる作品もともに紹介する。いつも私の作品の近くにいてくれた川の流れのように、私も染まろう。染まる中で見つけてきたものは、人によっては「うぬぼれ」にも近いだろう。でも私はうぬぼれやとして今日も発表する。うぬぼれが語る語り直しが、損なわれたやわらかく大事な部分を優しく受け止めなおす装置として働くところを、私は私の展示で何度も見てきたのだから。

今読んでいる本: 『友だち』シーグリッド・ヌーネス 村松潔訳新潮 クレストブックス

今聞いている曲: 『FROM THE WITCHWOOD』STRAWBS KING RECORD

2021.1.8

物語は人に刺さるほど受け継がれる。
私には桃太郎宝の蔵入りが刺さった。しかし、私は30歳を越えて子どもに恵まれなかったからこそ刺さったのだろう。
桃太郎には、あらゆるバージョンがあるが、中でも宝の蔵入りは興味深い。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川で洗濯中に桃を見つけ、それを二人で食すのである。宝の蔵入りは版では、桃太郎は桃から生まれない。不思議な桃が二人を若返らせ、することをして子をもうけるのである。
アンチエイジングにはもとより興味がなかったが、初めて桃太郎を欲したじじばばの物語になるほどの欲に共感した。この世には説得という形ではなし得ないことが様々ある。私自身、加齢すれば流産の確率はゆっくりと上がる。別にみんなぼんやりしていたわけじゃないよ。欲張りは最高。
加齢した人々が、せめて想像の中だけでも魔法の力で目に入れても痛くないようなたくましく可愛らしい子を得ること。そして、子が古今東西どこに出しても自慢できる武勇伝を持つこと。それを親バカの使命として親密なものたちに語って聞かせて呆れられること。
この「呆れられ」ほど痛快で幸せなことはないだろう。 私は、加齢して子が欲しくても産めなくてイマジナリーチャイルドを欲するほどの切実さが物語を生んだのではないか、という視点を得た。加齢することのよさはこの視点を得たことだ。そもそも産めないということだったかもしれないし、宝の蔵入り版でなければ二人は若返らない。しかし、彼らの夢であるならば、桃太郎がなぜほとんど自らに害のない鬼をわざわざ倒しに行くのか、なぜ桃太郎には切迫感が感じられず、主人公としての生きた人格が感じられないのかの説明がつく。彼には性格はいらないのだ。ただ、彼らの自慢の子どもであればいい。意味も切実さも、じいさんばあさんがこのような子がほしかったということの方に担保されている。あとはおまけのようなもので、「この子天才なんです」列伝が進行する。普通の人では成し遂げられないことを遂行し、普通の人では心が通わせられない動物と心を交わし尊敬され、大義名分なく悪者をこらしめる。通常の子育てでは、彼自身の意思を尊重すべきで、鬼退治にも村の人を怖がらせたことへの憎しみへの描写などがあるだろうが、それがない。桃太郎宝の蔵入りは親バカが描いたイマジナリー息子天才列伝であるという解釈。

今読んでいる本: 『私たちが光の速さで進めないなら』キム・チョヨプ カン・バンファ訳・ユン・ジヨン訳 早川書房 クレストブックス

今聞いている曲: 『グッバイ・アイランド』ボニー・タイラー RVC

2021.2.23

茶色い出血。流産か?!と焦り、「周りに(妊娠を)言わなくて良かった…」という気持ちが強くなった。

2021.2.24

時々、あの子のように活躍できたらどんなに良いだろうと、立場を交換したくなるような欲望が背中をかけ上ることがある。かといって、自分がやってきたことには満足していて、それを奪われてまであの子の活躍が欲しいわけではないのだが、どうしようもないときがある。神様、手製の神棚に手を合わせて祈る。いつもは感謝、時々願い、今みたいなときは、「あの子の活躍がほしかったって思っちゃうんです」と愚痴る。神に愚痴を言ってはいけないと思っていたが、ある運転手に「愚痴をたまにきいてもらいますよ」と聞いて、以来憎しみを向けるのではなく、こう思っちゃうんですよ…、と、愚痴を聞いてもらっている。

2021.2.25

刺さったけど抜けた、、あらゆる熱したもののことを思う。
少しはやめに仕事を終えて電車に座って帰るとき、目の前に70くらいの人が立ったので、何駅かやきもきした。
ふと思い立ち、「ふだんだと替わるんですが、今妊婦でもう2駅だけ座りたくて何駅までですか?」と、自己可愛がりと偽善のつまった質問。私より近い駅で降りるとのことだが感謝された。
妊婦マークをつけていると、新宿でそのマークをつけている人を蹴りに来る人たちが現れるという都市伝説を知っていて、マークをつけられない。新宿は好きな街だけど、女性に向かって思い切り体当たりをする人に何度かであっている。あと、自転車で通りすぎ様にこのブス!って行ってくる人もいる。だから金髪にしてスケボーもっているわけだけど、そうしてるとぶつかられないしブスとも言われない。さっきの電車で変わりたいけど替われないみたいなことわざわざ話しかけてコロナだし、よかった記憶にも悪かった記憶にもならないだろう。それくらい社会は、妊婦に矛盾をはらませる。だけどわざわざ街に出て、切ない思いでばかりも嫌だと思うのだ。
「友だち」という本が終わりに差し掛かり、書き手とドキュメンタリーについての話になった。被害者自身が語ることの手伝いを作家はすればよくて、なぜ名前を名乗って「代わりに語ってやる」必要があるかという問い。現代美術家の矛盾にも刺さると思う。
語るには才能が必要だから作家が語るというのには、矛盾がある。語れることに才能が必要で、その才能は権威と出自と教育の賜物。名声を受けるのは筆者。既に議論され尽くして堂々巡りの議題でも、やはり欺瞞に対してどういうけっちゃくをつけようかというのには悩む。
クナイプのバスミルクに浸かって水面の泡を指でくるくる描く。ずっと夢中になって台風を作ったり白泡の切れ目の水から覗く肢体にうっとりしたりする。

2021.3.26

2018年11月の展示。韓国。展示の写真は綺麗に撮ってある。けど、最終日前日に来てくれた人たちの写真がない6人くらいのフェミニストグループ。展示後に焼肉に行った。みんなおしゃれでかっこよかった。撮影しておけば良かった。

2021.3.27

6時起床。窓から光。気持ちいい。恋人に誕生日メール。水回りを掃除。排水口ネットを買わなければ。MacBookを査定に出すためプチプチで包む。恋人の親の誕生日のプレゼントも包む。コンビニの「ローソン」へ。まず査定の方を送る。セブンイレブンへ。ここではあらかじめ登録しておいたスマートフォン送り状で送付。お母さん喜ぶかな。レジのお姉さんの感じが良い。そのまま多摩蘭坂を登る。たまらん坂が多摩の蘭坂だったとは驚き。接写で花を撮影。ギャラリーゆきひらで嵐の日に見た展示を思い出すね。桜を接写で撮影すると赤いくつの男の人がピンぼけで遠くにうつりこんだ。物語だ。ぼけたかんじが本城直季を思い出す。買おうかな彼の写真集。自分のために。散歩してたら排水口ネットが売ってそうなスーパー見つけた。開店までもう少し散歩しよう。

今読んでいる本: 『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ 光文社古典新訳文庫

今聞いている曲: yu_tokiwa.djw.OSTER_project『murmur twins from O to W』TeirusuFX Youtube Music